fc2ブログ
2023/02/21

マイナスの美学そしてプラスの極意

実に久しぶりに海外に出かけてきました。その旅への思いはリネン&デコールさんとの往復書簡にしたためていますのでそちらをお読みいただけると嬉しいです。

今回はロンドン~パリを駆け巡るアート旅。かなりタイトなスケジュールでしたが、訪れたかった場所をコンプリートし、会いたい人にも会うことができた充実のひとときでした。そして毎度のアート旅同様、美術館やメガギャラリーの展示の圧倒的なすごさに打ちのめれ、けれどその打ちのめされた方が心地よくさえある”あの感じ”が久しぶりに蘇ってきて、素晴らしい建築空間の中で極上のアートに包まれる至福のひとときを過ごしました。

このブログでは初めて訪れた街バースについて綴ってみたいと思います。ロンドンから電車で一時間半ほどの郊外にある街バース。私の感覚で言うと大阪から京都(より少し遠いですね)といった感じ。初めて訪れたバースは小京都にたとえるとぴったりな小さくて、古い建造物がたくさん残るとても美しい街でした。けれどなぜアート旅でバースなのか?それはかねてから行ってみたいと思っていたギャラリーの存在があったからです。

雑誌「CEREAL」を発行しているRosa Park氏が拠点であるバースに開いた小さなギャラリーで名前はフランシス・ギャラリー。今はロスにもスペースがあるようです。インスタグラムで自宅の様子もずっと見ていたのだけれどとにかく震えるほどセンスがいい。けれどギャラリーは日々の生活に寄り添う感じで決してそのセンスは人を寄せ付けないものではない雰囲気です。メガギャラリーを巡るのも楽しいけれど、それらは私にとっては目の保養であり次元の違う世界のお話。そんな現代アート系ギャラリーとは違う立ち位置にあり、東洋と西洋、アートと工芸が無理なくそしてとびきりセンス良く展示されているギャラリー空間を見ることは、これからの私の仕事においてなにかヒントになるかもしれないと思っての訪問でした。

実際訪れてみるとインスタ画像で見ていたイメージより小さなスペースでしたが、心地よく凛とした空気が流れていて想像通りとても素敵なギャラリーではるばるやってきた甲斐があったというもの。図々しいことを承知の上で言ってしまえばなんとなく「こぉと」に通じるものも感じます。壁にかかる柔らかな色調のミニマムアートと一緒に並ぶセラミックの作品。空間はどこまでもシンプルでまさにそこにはマイナスの美学が貫かれています。前日ロンドンでメガギャラリーのとんがっている世界に触れ続けていた後に身を置いたそこで私は心地よい安堵感に包まれました。きっとその感覚は私自身の中の日本人としてのマイナスの世界に対する安心感に繋がったからでしょう。侘び寂びの世界観を自分なりに解釈して空間にしたらどんな感じだろう?そこにアートを飾るって素敵じゃない?「こぉと」計画の際に思い描いていた空間が目の前に繰り広げられているようでした。私の場合は大きな資金を空間に使うことが叶わなかったためどれほど自分の世界観を実現できたかはわかりませんが、展示の様子を見てこれからの「こぉと」のあり方が見えてきた気がしました。厳密にいうと「こぉと」はギャラリーではないけれどこれから私がやりたいことへの指針となった訪問でした。

さてここからまだお話は続きます。ただフランシス・ギャラリーではとても近しいものを感じ取ったものの、どこか自分の中で想定内といった感覚が残ったのも事実。この後私はこのギャラリーとは対極にあるような空間に身を置くことによってインテリアについて頭の中に様々な思いが渦巻いてきたのです。その場所とはある素敵な女性に案内されて訪れた小さなホテルのティールームでした。(案内してくださったSさんとの当日の様子もインスタグラムで投稿しています)

そこで私のインテリア脳はざわざわと騒ぎだしました。足を踏み入れた途端に「わあ」と小さく声がでてしまいそうなくらい、様々にスタイルやテイストの違う調度品が溢れかえった空間は一歩間違えればキッチュの一言で片づけられてしまいそう。けれどインテリアデザイナーのフィルターにかかり"ぎりぎり”のところで最高に洗練された空間に仕上がっているのです。このプラスにプラスを重ねたうえで”ぎりぎり”を狙うインテリアの手法は欧米デザイナーの真骨頂といった感じがします。だって大昔から彼らの先祖はプラスプラスのインテリアで暮らしてきていたのですから。先祖レベルの話になってくると我々のDNAにはマイナスマイナスのインテリア因子が脈々と流れているはず。障子や畳といったシンプルな内装材?に床の間にはお軸が一幅花一輪。それこそマイナスの美学ですもの。さて話を戻してこのティールームですが物が溢れていることにより洗練さに程よく温かみが加わり、物がたくさんの生活は好みでない私でさえずっとここにいたいと思わせるような素晴らしい空間でした。あの場所に身を置いていた2時間を私はこの先もずっと忘れることはないでしょう。まさにプラスの極意だと私は心から感動を覚えたのです。そして印象的だったのが、日本的に表現すると「カワイイ」となりそうなティールームに集っているのは大人たち。日本だとインスタスポットとして若い女性に占拠されそうな中みんな心地よさげにお茶を楽しんでいます。その風景までもがインテリアデザイナーの思惑通りと言った感じで、不思議の国のアリスみたいなインテリアの中、大人たちがティーカップを手にゆるりと過ごしている様子はちょっと不思議で洒落ています。自分もインスタ投稿していながら偉そうなことは言えませんが、マイナスの美学・プラスの極意、いずれにしてもそこに身を置く人にその価値は委ねられているということでしょうか?ちらりとそんなことも頭をよぎりました。

バースでの一日は両方の世界が持つ粋さといったものを感じることができた貴重な経験でした。そして私は「こぉと」で自分なりのマイナスの美学を貫こうと誓ったのです。








関連記事

コメント

非公開コメント