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2022/05/25

「夢のつづき」のつづきのオハナシ

私にとって3回目となる銀座蔦屋書店でのトークイベントに4月末登壇しました。1回目は「アートと暮らす日々」の出版記念、2回目はリネン&デコール代表菊川博子氏と、そして3回目は谷口江里也氏による「ギュスターヴ・ドレとの対話」刊行記念で氏の対談相手としての登壇でした。

この経緯についてはインスタでも少し触れているのでご存じの方もおられるかもしれませんが、今一度。事の始まりは奈良蔦屋書店で見つけた一冊の本。それが谷口氏のご著書「夢のつづき」だったです。ピカソがひとさし指を天に上げている不思議な写真が装丁に使われていて、吸い寄せられるように本を手に取ったことを覚えています。その時まで私は谷口氏のご本を読ませていただいたことはなかったのですが、そのエッセイの中に出てくる数々の珠玉のストーリー(もちろん実話)が不思議なほど心に迫ってきて忘れられない一冊となりました。著名な人とのやり取りだけでなく、スペインの市井の人々と氏が繰り広げられたその会話のなんと美しく感動的なこと。そしてその本は日本にいながらスペインの風や香りに包まれるような、そんな感覚をも残してくれました。

そんなことから昨年の菊川氏との対談の中お気に入りの一冊として「夢のつづき」を取り上げさせていただいたのです。選書コーナーに置かれたその本はすぐに売れてしまい、出版社未知谷の方からも感謝のメールをいただきました。なんだかちょっとくすぐったいような気持ちになったのですが、本を通じてたくさんの方に私同様の感動が届くのだと思うと本好きとしてはとても嬉しい出来事でした。

そんな感じで「夢のつづき」にとても思い入れがあったものの、氏の最新刊「ギュスターヴ・ドレとの対話」刊行記念の対談相手として蔦屋書店からご指名いただいた時はまさに青天の霹靂。「本当に私でいいんですか?」としか言えませんでした。正直「夢のつづき」の中でギュスターヴ・ドレが登場してもその名前にピンとこず、そんな私が対談相手として皆さまの前に立つなど恐れ多い話。けれど蔦屋書店Sさんから「とても美しく興味深い本ですよ」と告げられたこと、さらには谷口氏に直にお目にかかってみたいという思いの方が躊躇する気持ちより強くなってきたことから「えいっ」とお引き受けすることにしたのです。

ほどなくゲラが(ああ、人様のご本のゲラを読むという栄誉!)送られてきたのですが、谷口氏が友人のような口調でドレに語りかける感じでドレを知らなくてもすんなり頭と心に沁みこんでくる内容でした。読み進めていくうちに自然とドレの人となり、制作スタイル、さらには当時の美術界でのドレの立ち位置などを知ることができたのです。とはいえ、対談させていただくからには一読者として臨む訳にはいきません。その後完成した本も送られてきてさらに読み込み付箋だらけ(笑)。「夢のつづき」に出てきたドレにまつわるエピソードと照らし合わせて私としては万全の体制とまではいかずともできる限りの準備を進めました。

けれど準備はしたものの初めてお会いする谷口氏が気難しい方だったらどうしよう、付け焼き刃でドレについて学んだ私なんぞと対談することでご気分を害されたらどうしようと、不安は尽きません。なので蔦屋書店Sさんに私はあくまで教えを乞う形で対談を進めてもいいかと打診したところ、その方が話を聴いておられる方にとってもよりわかりやすく伝わるかもしれないということになり、そんなカジュアルなスタイルで話を進めることになったのです。

そして迎えた当日、すべての不安は谷口氏とお目にかかった途端に吹き飛びました。氏は優しい笑みを浮かべた茶目っ気溢れる実にチャーミングなムッシュ。私の仕事内容も事前に調べていただいたようでお会いしてすぐに意気投合し、本番が始まる前に話はとどまることはありません。「ここからもうトークイベントが始まっているみたいですね」と話しながら、本同様にご本人から発せられる「言葉の宝石」を漏らさず心に留めることに夢中になりました。

けれど不思議なことに話された内容がこれこれだったとは覚えていないのです。私が日頃から考え実践し、信念としている内容とあまりに合致していたからかもしれません。すんなりと心と頭に溶け込んでそのまま細胞になった感じ。後から思えば氏と話した時間は「夢のつづき」のつづきともいえる不思議で感動的なひとときであったとしか表現できないのです。

トークイベントでは氏の溢れるドレ愛を聞かせていただき、その熱量に圧倒される思いでした。対談相手として相応しかったかどうかは別として、とても楽しいお話を披露していただくことができたことは、後から写真を見て再確認。くしゃくしゃの笑顔の私がそこにいたからです。

トークが無事終わり私は自分を少し褒めてあげたくなりました。よくぞ勇気を持ってこのトークイベントを引き受けたと。それほどまでに私にとっては貴重な経験になったからです。谷口氏・蔦屋書店に心からお礼を申し上げます。

そしてあの夜あの場所にいたであろうギュスターヴ・ドレにも感謝を。。。



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