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2021/07/23

建具のオハナシ

*「こぉと」計画中に感じたことを様々な切り口のオハナシで綴っていきたいと思います*


「インテリアにおいて一番重要なのは建具かもしれない」薄々気づいてはいましたが(笑)今回の計画でそれは全くもって正しいと確信した気がします。住宅メーカーのインテリアコーディネーターとしてキャリアをスタートさせてばかりの頃はその重要さに気づいていなかったのですが、様々な住宅の建具を見るにつけその存在の大切さを知っていきました。けれど住宅メーカーにおいては部資材はオリジナルを使うことがほとんど。もちろん家具工事として建具を作ることもありましたが、コストがかかる上に納まりの問題なども発生し会社側からはあまり推奨されていなかったのです。そのため建具の重要性を知ってはいるものの、どこかでスルーしてしまうようなところがあって、いろんな知識を積極的に得ることもありませんでした。

今回の計画ではそんなちょっと苦手な建具問題に取り組んでみたいと思っていたところ、インスタグラムで福嶋建具店を見つけ思わず心の中でこう叫んだのです。「これこれ!こんな建具を探していたの!」木製建具に加えこちらが制作している障子の感じもとても素敵。早速ひとともり長坂さんにその旨を伝えたところ、福嶋さんをご存じだったためとんとん拍子に話が進み、こぉとの建具全般をお願いすることとなりました。小さなリフォーム物件ゆえさほどの数の建具がないと思いきや、今回カーテンは使わず障子の計画だったため空間ボリュームの割に建具が多くなることに後から気づくことに。そのため福嶋氏も大変だったでしょう。なにせクライアントは私ですから。

まずは内部建具。これは突板工場まで足を運び、たくさんの練り付け合板突板の現物を見ながら選ぶことになりました。樹種の違いだけでなく選ぶ箇所や組み合わせで様々に表情を変える突板の数々。ずっインテリアコーディネーターとして働いていたにも関わらず新たに知ることばかりで、向こうからオススメしてもらったのは届いたばかりの北海道の材でした。

空間のイメージや好みを伝えると、すぐに見本板を作成してくれます。アイロンでプレスして板に貼り付け圧着。さらにそこからどの部位を除きどこをカットするかをどう合わせていくかなどをチェックして、最後にこちらの社長の絶妙な技と多くの経験から培われたであろう卓越したセンスにより、再度組み合わされイメージどんぴしゃりの見本に仕上がります。このような工程を知らずに長年私はインテリアの仕事をしていたのかと思うと恥ずかしい限りでした。でも間に合ってよかった(笑)。知識を得るのに遅すぎるということはないのですから。

次は外部の建具です。こちらは銘木屋さんに伺って長坂氏と福嶋氏があらかじめ選んでくれていた材を確認しにいきました。見た途端途端一目惚れといった私の様子を見た時の2人の安堵の表情ときたら!和の空間にも、さらには私の持っていたイメージにもぴたりとはまるとてもシックな色味の材は朴の木。その美しさとは裏腹にとても強固な材でまな板や下駄にも使われるのだとか。この材を最初に観た瞬間「出会った」という気持ちになったくらいでした。

さて、福嶋氏をかなり困らせたのが障子でした。どうしてもお願いしたかったのは横の桟が存在しない縦の桟だけの障子。インテリアのプロの方ならこれはかなりリスキーな選択だと気づかれるでしょう。横桟がないと紙が引っ張られて障子自体が歪んでくる恐れがあるからです。小さな面積の障子ならそれほどではないのですが、今回の計画では大きな面積の障子もあり、しかもその障子は空間のアイコンにもなる存在感。横桟のないデザインはそれは美しいのですが、案の定、設置してすぐに反りが発生しました。福嶋氏にとっては想定内ではあったのでしょうか?すぐに細部に工夫がなされ問題は解決。

さらに空間入口にも障子を使用したのですが、縦桟だけでも厄介なのに手がかりとして小さな引手を作ったものだから、反りがここでも発生し開閉に支障をきたすことに。ここからの処理に私は深く感動しました。職人さんたちが工場で考えあぐねた結果、障子越しには見えない(太鼓張りのため)ように細いアクリルの棒を入れることによりそれらを解決してくださったのです。

紙も木も自然素材。気温や湿度でその状態は変わります。デザインを優先させるということは自然に逆らうことでもあります。もし私がコーディネーターの立場だったならば、お客様にお薦めしたでしょうか?おそらくNOでしょう。

福嶋建具店の皆さんには大変ご迷惑をおかけしたけれど出来上がった障子を前に私はニンマリ。福嶋氏や職人さんたちのご尽力に深く深く感謝するのです。

2021/07/19

家具のオハナシ

*「こぉと」計画中に感じたことを様々な切り口のオハナシで綴っていきたいと思います*


オーダーしてから数か月待ち望んでいたラウンジチェアが先日届き、やっと「こぉと」の全ての家具が揃いました。当初の予定ではメインの空間にはポール・ケアホルムのPK80を真ん中に一つだけ設置するはずでした。そこに座って壁のアートを眺める、そんなイメージがずっと頭の中にあったからです。けれど予算を抑えるために大幅に空間の使い方を見直したことから、アートを展示するのもセミナーを開催するのも同じ空間にまとめることに。結果、実際の住空間で楽しむように作品を見ることになってとても満足しています。建築業界に長くいた身としては予算を大幅にカットするには小手先の減額ではどうにもならないことをよく知っています。その一方で予算があるからといって出来上がりに大満足という訳でもないことも熟知しているつもりです。コストに加え余分なものをそぎ落としていくと空間のコンセプトまで明確になっていく、そんなプロセスはとても貴重でかつ楽しいものでした。

さてそのためセミナー用のテーブルや椅子、コーナーに置くラウンジチェアなどが同じ空間に存在することとなり、建築を担当してくださった長坂氏からも家具の情報をいただいたのですが、そこはやはり私のスタイルを貫くことにしました。私のスタイルとはずばりミックススタイル。

シンプルで和のホワイトキューブのような「こぉと」ならば北欧のいわゆる名作家具やイタリアの家具だとスーパーレジェーラあたりがしっくりくるでしょう。けれど予算にも限りがあるし、なによりオサマリすぎてつまらない。そしてぼんやりと頭に浮かんだのが、今回は日本の家具ブランドで決めたい、それに加え修道院にあるようなソリッドでシンプルな椅子の原型といったデザインのものを選びたいということでした。(修道院でどのような椅子を使っているかはよく知りませんが、これはあくまで言葉としてのイメージとご理解ください。)あくまでアートが主役になるような、アートの存在を邪魔しないような、そんな椅子やテーブルです。

その基準で選んでいって最後まで残ったのがタイム&スタイルとカリモクケーススタディの2つのブランド。ご存じの方も多いかと思いますが、後者はデンマークのNorm Architectsというデザインスタジオをディレクターに迎えカリモクが立ち上げたブランドです。この2つのブランドの間で少しばかり悩みました。ただカリモクケーススタディはとても素敵なデザインなのだけれど、どうしてもお家感が強くなってほっこりしそうな気がして。。。普通のお住まいならオススメしたくなるデザインなのですが、今回はビューイングルーム。よってタイム&スタイルに軍配が上がり、その中でも一番シンプルなデザインの椅子とテーブルに決めました。

これらの椅子とテーブルにどんなラウンジチェアをコーディネートするか?もちろん同じブランドで統一するのは絶対にNG。そこでラウンジチェアだけは”名作椅子”を合わせることにしました。そしてここでもハンス J.ウェグナーのCH25とポール・ケアホルムのPK25の2つまで絞りましたがこの2者択一は割と簡単に決まりました。CH25だとタイム&スタイルの椅子とテーブルが木の温かさに引っ張られて、空間にシャープさがなくなってしまう。スチールが印象的なPK25をコーディネートすると良い意味での緊張感といったものが保たれます。なにより背と座面に麻紐が使われているため他の家具ともバランスよく、ほんの少し柔らかい印象を空間に与えることができるだろう、とPK25に決定。ラウンジチェアがパズルの最後の1ピースのようにハマった段階で、「こぉと」の空間が私の頭の中で完璧に完成しました。

インテリアは感性が重んじられるような印象があるかと思いますが、私はどちらかというと理論的なものだと考えています。ミックスインテリアで空間を作り上げる場合は特にです。”混ぜるな危険”のアイテムやスタイルがあって、うっかり混ぜてしまうと有毒ガスが発生してしまう(笑)。素晴らしいインテリアを目にすると、そこにはセンスの良さだけでなく、緻密に計算された足跡のようなものを感じることがよくあります。

さてシンプルさを念頭において選んだ椅子ですが、座り心地がとてもよくテーブルに至ってはカーブのところを触っているととても気持ちが良いとセミナー受講者の皆さんにも大評判。もちろんPK25に座った時の見た目とは相反する安定感も最高です。良いデザインの家具は使い勝手も同じく良いということを改めて実感しました。

「こぉと」の計画で、私は家具選び、そしてそれらのコーディネートの原点に立ち返ったような気がするのです。



2021/07/19

コーヒーセミナーのお知らせ

アートと暮らすと食や住まいへのこだわりがさらに強くなるような気がします。

そんな皆さんに向けてプライベートビューイングルームこぉとでは「アートと暮らその先へ」をテーマに様々なセミナーを開催します。
9月はYARD Coffee & Craft Chocolate の中谷奨太氏をお迎えしコーヒーにまつわるお話を伺いながら、チョコレートとのテイスティングも楽しんでいただきます。

アートのある空間でコーヒーについて学んでみませんか?少人数制のためご興味ございましたらお早めにお申し込みくださいませ。

日時:9月15日水曜日  10時~12時 / 14時~16時
場所:奈良県(お申し込みの方にご案内を送らせていただきます)
参加費:10,000円
お申し込み方法:お名前、ご住所、電話番号明記の上 info@allier.jp もしくはインスタDMでお願いいたします。