アートは時に魂を救ってくれるのです
この仕事を始めてからアートを通じ多くの出会いや感動する出来事に出会いました。その都度アートが運んできてくれるご縁はすごいものだと実感していたのですが、今からお話する出会いは実は私の心の中にそっとしまっておこうと考えていました。それほど私にとっても心震える出来事で、作品を買ってくださったお客様、私、そして作家だけで共有する、そんなアートを取り巻く物語があってもいいのでは思ったからです。
でもそのお客様(I様)とやり取りするうちにずっと大切にしてきたこのブログの場所でお話させていただきたいと強く思うようになりました。I様にもご承諾をいただいたので少し長くなりますが綴らせてくださいね。
少し前にインスタグラム上である方から「亡くなった夫が奥村さんのIGに出会わせてくれたような気がする」というコメントが入り、そこには「自宅のアートを考えているので東京のイベントに伺います」といった旨も添えられていました。当初私は勝手にご年配の方かと思っていたんですが、イベント2日目の夜に「明日中学2年生の娘とまいります」と連絡があり、まだお若い方なのだとその時初めて知りました。
猛暑の中最終日にギャラリーの扉を開けて入ってきてくださったその方はキラキラしたとてもとても美しい方でした。一緒に恥ずかしそうに入ってきたお嬢様もとっても可愛くて利発な感じの女の子。なんて素敵な親子なんだろう、そんな第一印象でした。
お話を伺うと3年前にご主人様を亡くされやっと気持ちが前に向かってきたので当初リフォームを計画なさっていたのとのこと。でも私のインスタグラムに出会ったことがきっかけで、ご主人様の残してくださったお住まいをしばらくはそのままにしてアートを飾ることで気分を一新されようと思い立ったそうで、責任重大の依頼です。
ところがお嬢様はあまりアートを買うことにあまり賛成ではないのだとか。おじいさまの残された作品がずっとリビングに飾ってあってしかも大層お気に入り、さらには絵を描くのが大好きなこともありお住まいには自分の絵を飾るものだと思ってらしたのです。私は彼女の心の中まで推し量ることはできないけれど、お父様と過ごした思い出がアートを掛け替えることで消えてしまうと思ってらしたのかしら?なのでゆっくりじっくり慎重にお嬢様に作品をご覧いただくことにしました。
しばらく時間が経ってから「お嬢様はどれが一番お好き?」と尋ねると迷わず吉岡千尋作品を指さして「これ」と仰るのです。その作品の雰囲気がお嬢様にぴったりだったんでなんだかとても嬉しくなってしまいました。一方のお母様のI様は完璧に作品選びのイニシアチブをお嬢様に渡しておられてちょっと不思議な感じがしたんですね。後で理由を聞いて納得しました。
少し文章を要約していますが以下のようなお話でした。
「打ち明け話ですが、イニシアチブは敢えて娘に取らせるように仕向けました。自分と同じく今を生きるアート作品に対して傍観者でいて欲しくなかったのです。アートを自分の感性を前開にし、選ぶ。そして家に迎え、自分が選んだアートと共に人生を送る、そういったことを伝えたかったのです」

これがお嬢様が選んだ記念すべきファーストピースです。ギャラリーで「じゃあ、これはママがプレゼントしてあげるわ」とI様が仰ったときの嬉しそうなお顔ったら!!!作品が届いた日に早速ご自身で飾り、お嫁に行くときも一緒に連れて行くとI様に話されたそうです。作品も本当に幸せものです。
さて2人共お気に召された横溝美由紀作品がありました。リビングの壁に飾ろうという話になったんですが、お嬢様の作品を壁からなくしてしまうのもなんだか違うなと思ったんですね。その時に以前横溝さんから聞いた話を思い出しました。横溝さんのお嬢様が展覧会の時に「なんでママの絵ばかりで私の絵は飾ってくれないの?」と拗ねてらしたという話。その話を伝えて「そうだMちゃんの作品もここに一緒に飾ったらどう?」と提案してみたんです。携帯でお嬢様の過去の作品をいろいろ見せてもらって横溝作品の中にある色とリンクする作品を選び「これ2点並べるとすっごくカッコいいと思う!本当のアーティストの作品と自分の作品を並べてみると勉強になるかもしれないよ!」と説明するとお嬢様の目がキラキラしてきました。

そんなやり取りで設置してもらったのがこちらです。(ちなみに設置にはMA2ギャラリースタッフのめいこちゃんが行ってくれてその想いを汲んですごくこだわってくれたんです!!)
これは現代アートを購入した際の正しい飾り方かどうかはわかりません。でも正しいってなんでしょう?アートと暮らす素晴らしさは作品が住まい手の心を癒し勇気づけ優しい気持ちにしてくれることにあります。そういった意味で私は今までの仕事の中である意味一番正しい設置だったように思うのです。
部活から帰ってきたお嬢様は本当に嬉しかったご様子で「うわ~~~!すごい!すごい!私の絵と並べて良かったの?すごい素敵だ~」と大興奮なさったそうなんです。そして夕方西日が入った光景に感動して「日差しと影が絵にきれいに写っているから写真撮ってくみさんに送って!」と追加で画像が届きました。
アートと暮らす喜びはそこにもあります。一日のうちにいろんな表情を見せるアート。その美しさに気づき感動する、そんな毎日を過ごすことはなんて素晴らしいことでしょう。誰に教わるでもなく新たな作品が届いたことでMちゃんがすぐにそれをわかってくれた事、これにも私は深く感動を覚えました。
そして、、、最後に選んでくださった坪田昌之作品がこちらです。

今まで坪田さんの作品はたくさん見てきたけれどこの濃い茄子紺の色は初めてだったんです。とってもカッコ良くて渋い作品で何人かのお客様がお気に召されたんだけどなぜか決まらない。なんだか誰かを待っているようなそんな感じが作品から伝わってきていました。
I様親子がなぜこの作品に引き付けられたのか、それは亡くなられたご主人様のイメージがそこにあったからなんだそうです。「これ、まさに夫のイメージなんです」「うん、パパだよね~」そんなやり取りのあと見せていただいた写真にはダンディーでお優しそうでとっても素敵なご主人様の様子が、、、あ~そういうことだったんだ。この作品は2人を待ってたんだ、やっとその時わかりました。
子育てをしながらご主人様の闘病を支え、その後の疲労から体調を崩され大変な日々を過ごされてきたI様。でも私が一番すごいと思うのはそのご苦労が外に微塵も出ておられないこと。過ごした時間は長くなくても深い深い愛をご主人様がI様に注いでいたからこそ悲しい日々を経てもなお輝いておられるのでしょう。そして長文のメールをやり取りしているうちにI様の内面の美しさに触れ心持はその人を美しくするのだと改めて思ったのです。
「葬儀の時に一生分泣いて、ほとんと泣けなくなっていたのがソファで作品を観ているうちにいろんなことがあたたかいものに変化して胸に溢れて涙が止まらない」そんなメッセージに私も泣きました。
東北大震災の時多くのアーティストがアートの無力さを嘆くツイートなんかを目にしました。正直悲しみのさ中にいる時にアートはなんの役にも立たないでしょう。私だって悲しみのさ中にいる時にアートを眺めて心が癒されたかというとそうではありません。
けれどいろんな苦難から立ち上がろうとする過程でアートは私たちを癒してくれるものだと信じています。
そして少なからずアートは人の心を救済してくれるのだとも信じています。
この仕事を続けていく意味を今回の出来事は私に今一度教えてくれました。
I様に心からの感謝を込めて。
でもそのお客様(I様)とやり取りするうちにずっと大切にしてきたこのブログの場所でお話させていただきたいと強く思うようになりました。I様にもご承諾をいただいたので少し長くなりますが綴らせてくださいね。
少し前にインスタグラム上である方から「亡くなった夫が奥村さんのIGに出会わせてくれたような気がする」というコメントが入り、そこには「自宅のアートを考えているので東京のイベントに伺います」といった旨も添えられていました。当初私は勝手にご年配の方かと思っていたんですが、イベント2日目の夜に「明日中学2年生の娘とまいります」と連絡があり、まだお若い方なのだとその時初めて知りました。
猛暑の中最終日にギャラリーの扉を開けて入ってきてくださったその方はキラキラしたとてもとても美しい方でした。一緒に恥ずかしそうに入ってきたお嬢様もとっても可愛くて利発な感じの女の子。なんて素敵な親子なんだろう、そんな第一印象でした。
お話を伺うと3年前にご主人様を亡くされやっと気持ちが前に向かってきたので当初リフォームを計画なさっていたのとのこと。でも私のインスタグラムに出会ったことがきっかけで、ご主人様の残してくださったお住まいをしばらくはそのままにしてアートを飾ることで気分を一新されようと思い立ったそうで、責任重大の依頼です。
ところがお嬢様はあまりアートを買うことにあまり賛成ではないのだとか。おじいさまの残された作品がずっとリビングに飾ってあってしかも大層お気に入り、さらには絵を描くのが大好きなこともありお住まいには自分の絵を飾るものだと思ってらしたのです。私は彼女の心の中まで推し量ることはできないけれど、お父様と過ごした思い出がアートを掛け替えることで消えてしまうと思ってらしたのかしら?なのでゆっくりじっくり慎重にお嬢様に作品をご覧いただくことにしました。
しばらく時間が経ってから「お嬢様はどれが一番お好き?」と尋ねると迷わず吉岡千尋作品を指さして「これ」と仰るのです。その作品の雰囲気がお嬢様にぴったりだったんでなんだかとても嬉しくなってしまいました。一方のお母様のI様は完璧に作品選びのイニシアチブをお嬢様に渡しておられてちょっと不思議な感じがしたんですね。後で理由を聞いて納得しました。
少し文章を要約していますが以下のようなお話でした。
「打ち明け話ですが、イニシアチブは敢えて娘に取らせるように仕向けました。自分と同じく今を生きるアート作品に対して傍観者でいて欲しくなかったのです。アートを自分の感性を前開にし、選ぶ。そして家に迎え、自分が選んだアートと共に人生を送る、そういったことを伝えたかったのです」

これがお嬢様が選んだ記念すべきファーストピースです。ギャラリーで「じゃあ、これはママがプレゼントしてあげるわ」とI様が仰ったときの嬉しそうなお顔ったら!!!作品が届いた日に早速ご自身で飾り、お嫁に行くときも一緒に連れて行くとI様に話されたそうです。作品も本当に幸せものです。
さて2人共お気に召された横溝美由紀作品がありました。リビングの壁に飾ろうという話になったんですが、お嬢様の作品を壁からなくしてしまうのもなんだか違うなと思ったんですね。その時に以前横溝さんから聞いた話を思い出しました。横溝さんのお嬢様が展覧会の時に「なんでママの絵ばかりで私の絵は飾ってくれないの?」と拗ねてらしたという話。その話を伝えて「そうだMちゃんの作品もここに一緒に飾ったらどう?」と提案してみたんです。携帯でお嬢様の過去の作品をいろいろ見せてもらって横溝作品の中にある色とリンクする作品を選び「これ2点並べるとすっごくカッコいいと思う!本当のアーティストの作品と自分の作品を並べてみると勉強になるかもしれないよ!」と説明するとお嬢様の目がキラキラしてきました。

そんなやり取りで設置してもらったのがこちらです。(ちなみに設置にはMA2ギャラリースタッフのめいこちゃんが行ってくれてその想いを汲んですごくこだわってくれたんです!!)
これは現代アートを購入した際の正しい飾り方かどうかはわかりません。でも正しいってなんでしょう?アートと暮らす素晴らしさは作品が住まい手の心を癒し勇気づけ優しい気持ちにしてくれることにあります。そういった意味で私は今までの仕事の中である意味一番正しい設置だったように思うのです。
部活から帰ってきたお嬢様は本当に嬉しかったご様子で「うわ~~~!すごい!すごい!私の絵と並べて良かったの?すごい素敵だ~」と大興奮なさったそうなんです。そして夕方西日が入った光景に感動して「日差しと影が絵にきれいに写っているから写真撮ってくみさんに送って!」と追加で画像が届きました。
アートと暮らす喜びはそこにもあります。一日のうちにいろんな表情を見せるアート。その美しさに気づき感動する、そんな毎日を過ごすことはなんて素晴らしいことでしょう。誰に教わるでもなく新たな作品が届いたことでMちゃんがすぐにそれをわかってくれた事、これにも私は深く感動を覚えました。
そして、、、最後に選んでくださった坪田昌之作品がこちらです。

今まで坪田さんの作品はたくさん見てきたけれどこの濃い茄子紺の色は初めてだったんです。とってもカッコ良くて渋い作品で何人かのお客様がお気に召されたんだけどなぜか決まらない。なんだか誰かを待っているようなそんな感じが作品から伝わってきていました。
I様親子がなぜこの作品に引き付けられたのか、それは亡くなられたご主人様のイメージがそこにあったからなんだそうです。「これ、まさに夫のイメージなんです」「うん、パパだよね~」そんなやり取りのあと見せていただいた写真にはダンディーでお優しそうでとっても素敵なご主人様の様子が、、、あ~そういうことだったんだ。この作品は2人を待ってたんだ、やっとその時わかりました。
子育てをしながらご主人様の闘病を支え、その後の疲労から体調を崩され大変な日々を過ごされてきたI様。でも私が一番すごいと思うのはそのご苦労が外に微塵も出ておられないこと。過ごした時間は長くなくても深い深い愛をご主人様がI様に注いでいたからこそ悲しい日々を経てもなお輝いておられるのでしょう。そして長文のメールをやり取りしているうちにI様の内面の美しさに触れ心持はその人を美しくするのだと改めて思ったのです。
「葬儀の時に一生分泣いて、ほとんと泣けなくなっていたのがソファで作品を観ているうちにいろんなことがあたたかいものに変化して胸に溢れて涙が止まらない」そんなメッセージに私も泣きました。
東北大震災の時多くのアーティストがアートの無力さを嘆くツイートなんかを目にしました。正直悲しみのさ中にいる時にアートはなんの役にも立たないでしょう。私だって悲しみのさ中にいる時にアートを眺めて心が癒されたかというとそうではありません。
けれどいろんな苦難から立ち上がろうとする過程でアートは私たちを癒してくれるものだと信じています。
そして少なからずアートは人の心を救済してくれるのだとも信じています。
この仕事を続けていく意味を今回の出来事は私に今一度教えてくれました。
I様に心からの感謝を込めて。